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KINGASH男子 初優勝への軌跡


この物語は事実を元にしたフィクションです



平成19年4月22日、渋谷区春季大会が開幕した。

今年は渋谷区ABの計32チームが覇権を争う渋谷区最大の大会だ。
その中でもAに所属出来るのはたったの6チームだけである。

毎年激戦が繰り広げられるこの大会は、ただAに所属しているからといって勝てる大会ではない。人の流れの多い東京では勢力分布図は毎年大きく変わる。

18年度のAB春季大会の覇者 JETS

17年度のAB春季大会、16年度の冬季トーナメントの覇者 わたなべ(一度解散したため、今回はBとしての出場)

18年度春C、18年度秋Bを制した個性派新興勢力のMix-1(今年度よりA)

そして、ここ3年間で5つのタイトルを誇る王者MADMAXを中心にこの大会は幕を開けたのである。






左上の山には第一シードのMADMAX。一回戦から94-43、79-52、76-63と危なげなく準決勝まで駒を進めた。
安定した強さを誇る理由は、強固なインサイド陣にある。
ここぞという時にはチーム全体が自分たちの強みを生かしたバスケットをしてくる。
都大会ベスト8の実力は、チームワークによって生み出されていると言えるだろう。


左下の山には第4シードの幡ヶ谷クラブとMix-1の争いと思われていたが、18年度秋Cを制したJAMが二回戦で幡ヶ谷クラブを63-44で下し、王者への挑戦権はMix-1とJAMの争いとなった。

渋谷区Bの王者とCの王者の対決は79-59でMix-1が順当に勝ち上がりを告げた。
Mix-1は8分ゲームで80-45、89-47、79-59と攻守ともに安定したバスケットで今回の台風の目となった。
その中心には、東京都クラブチャンピオンチームに所属する点取り屋の存在があった。






右上の山には18年度春ABベスト4、18年度秋3位の原宿DEESが第三シードで決勝の座を虎視眈々と狙っていた。
しかし、ここでも番狂わせは起きる。

スーパージェッツが一回戦でDEESを47-41で退けたのだ。
波に乗るスーパージェッツは続く二回戦、強豪わたなべをも苦しめる。
だが、最後には経験の差がでた。とたんに足が止まったスーパージェッツは49-42でわたなべの硬い壁を打ち破ることは出来なかった。

この山にはもう1チーム前回春季ABベスト4のチームがいた。


それがこの物語の中心となるKINGASHである。


時は平成18年春季AB大会。Cの大会でかろうじてベスト4に入りBへの昇格を果たしたKINGASHは驚くような成績を残した。

初戦を72-42で圧倒し波に乗った。続く二回戦を64-44、三回戦はAのシューティングスターズを相手に68-40という圧倒的なディフェンス力で準決勝まで勝ち上がった。

準決勝の相手には元実業団のエースがいた。
チームの柱を欠いたこともあるが、エースに面白いように得点を重ねられ83-44で敗退する。
それまでの強固なディフェンス力が嘘のように崩壊した。

その勝者は決勝の舞台でMADMAXを88-85で退け18年度春季ABを制することになる。







19年度を迎えたKINGASHには大きな問題が巻き起こった。
高校全国チャンプのイケメンが大学再進学のために東京を離れた。
イケメンと同じ高校の相方、もこみちも不慣れなポジションをこなすことが多くなり、少しずつ調子を崩していた。

足りない。高さが足りない。チームの誰もがそう思っていた。

どの大会でも最後は相手のセンターにやられ、道を断たれた。

レッドは悩んでいた。「バスケ辞めようかな・・・」
イケメンとの出会いでバスケに対する熱が再燃したレッドには、イケメンとの別れは火種を失ったに等しかった。

チームの代表、モリコーも様々な葛藤を抱えていた。

「チームの強化が優先なのか、既存のメンバーだけでやっていくのか・・・・」

代表、キャプテン、会計と全てを一人でこなしていたモリコーは疲れ果てていた。
それでも愛すべきチームに力を注ぎ、ある一つの決断をする。

「レッド、キャプテンをやってくれないか」

イケメンを失ったことで燃え尽きそうなレッドと、今後のチームの方針に悩むモリコーのほかにもKINGASHのメンバーはそれぞれ悩みを抱えていた。







彼は毎日一番先に練習場を後にしていた。
練習に来てもあまりしゃべらず、ただただバスケをしていた。
彼は高校時代に長野を制し、パワーとテクニックを備えたすばらしい人間だった。

イケメンの最後の大会でスタメンに抜擢された彼は、チームになじめず自分の力を発揮できないでいた。彼もまたもこみちと同じようにチームの事情でインサイドを求められていたからだ。

「大学をでたらアメリカにいこう」彼、イタオは遠くの空を見つめていた







しゃくれはいつも元気だ。ムードメーカーなしゃくれは人想いで笑顔を絶やさなかった。

若さゆえに勢いでバスケをしていたしゃくれは、KINGASHと出会い本気でバスケを好きになる。
過去に大きな結果を残していないしゃくれは、ただイケメンともこみちとバスケが出来ることに感動を覚えていた。

「俺もいつかチームの力に」ある日しゃくれは決意した。それから毎日走った。ウエイトもした。遠くの場所までバスケをする為に出向いた。

ただ、それからが彼の試練の始まりだった。
頑張っても頑張っても試合に出ることは出来ない。
希望が欲望に変わり、信頼は疑問へと姿を変えた。
チームが勝って笑顔で皆を出迎えても心で泣いた。



いつしか笑顔も消え去った。







「なんだよ、あいつの態度は!!それでもプロかよ!!」ブースターの前でふざけた態度をとるプロにカズオは憤りを感じていた。
KINGASHの副代表であるカズオは、日本バスケ界の荒波の中にいた。
右を向いても左を向いてもバスケバスケ。ただ自分がプレイする側ではなく、自分がバスケ界とブースターを繋げるサポート役であった。
「あんな奴らがバスケで飯食って、俺は・・俺は・・・・」
シーズン中の土日は仕事でつぶれていたカズオは毎晩思っていた。

「安西先生・・・バスケがしたいです・・・」







レッドとイワキは中学時代の同級生だ。レッドが東京に越してきた際にチームを紹介してくれたのはイワキだ。
県外の高校に進学したレッドと地元の高校に進学したイワキは共通の友人の結婚式の二次会で久々に顔を合わせる。
そのときにイワキから聞いた東京の住所とレッドの引越し先が偶然にも同じ場所だったのでレッドがイワキにチーム紹介を頼んだ。
はじめて一緒に向かう電車の中、イワキはこう忠告した。

「変な人がいるけど、無視していいからね」
18年3月、KINGASHは混乱していた。

そんなイワキの悩みは自分のサイズだった。
「どうしてもパワーで負けちゃう・・・」
自分自身との戦いは始まった。









「レッド、キャップテンをやってくれないか」

その一言がレッドにもう一度息吹を与えた。
レッドは信じていた。
「インサイドさえ補充できれば、このチームで必ず優勝できる」

個人個人の力は揃っていた。ただ、五体満足ではなかった。
右手から左手が生えたり、右足があるはずの場所に腕が生えていたり。
バスケットは五体満足で初めてチームになる。

イケメンという右足を失ったKINGASHは、強風の中倒れそうな案山子のような不安定さを見せ始めていた。

19年五月、イケメンが帰京するというので企画されたイケメンカップの日に、KINGASHに大きな出会いが訪れた。
チームのディフェンダー、アズミがビッグマンをつれてきた。

彼の名はチョモ。192センチのバリバリのインサイドプレーヤーだ。

アズミの兄とチョモが知り合いで、偶然一緒の席で飲んだことがこの出会いを招いたのである。イケメンカップのレジェンドとなったアズミはチョモにこう忠告する。
「KINGASHは遊びのチームじゃないので、本気でバスケがしたいのなら加入してください。」

チョモは本気だった。









ある日レッドの携帯がなる。
メール送信者はレッドがいわきで所属をしていたチームの後輩だった。
元板前のイタマエはバスケをするために板前を辞めた。

彼は全国クラブ選手権出場という経歴を持ち、パワーフォワードながらオールラウンドなプレイが出来る板前であった。
しかし、就職先で上司にある命令され東京に住むレッドに相談をしてきた。

【レッドさん、俺神奈川に転勤になっちゃいました】

いわきのチームには残念な話であったが素直にこの運命を受け入れたレッドであった。
キャプテンとなって早々のことである。
KINGASHに2本の足が生えようとしていた。

19年度春季ABの一回戦を91-32で突破したKINGASHは続く二回戦、18年度秋B準優勝のカニトップスを相手に59-51で競り勝つ。
2mのセンターをもこみちが終始シャットアウトしながらも、相手のゾーン攻略に苦しみ前半はリードを許していた。
この試合の終盤に流れを呼び込んだのはイタマエであった。

そのイタマエが試合終了後に静岡長期出張で戦線離脱する。
わたなべ戦の前に大きな痛手であったが、次戦からいよいよチョモが加入する。









前回の対戦で大敗を喫しているわたなべを相手に、チームが萎縮しているのをレッドは感じていた。
相手のゾーンを攻略できず、何も出来ずに敗れたと聞いていたからだ。

しかし、今回のわたなべはマンツーマンで勝負をかけてきた。

それはカニトップス戦でKINGASHが終盤見事にゾーンを攻略したことが大きいのだろう。

試合はチョモの加入で高さを得たが、その分フロアバランスを失った。
試合は一進一退の攻防を繰り広げる。

2ピリオド終盤、アクシデントは起きる。

レッドは相手を抜きさりヘルプをフェイクで交わし、貴重な得点を挙げた。
しかしその着地の瞬間に相手の足を踏み捻挫をしてしまったのだ。

得点源を欠いたチームではあったがここから踏ん張りを見せる。
全員で守り、全員で攻める。

前回わたなべ相手に大敗したチームとは思えないような戦いぶりでわたなべに必死で喰らい付く。

試合終了まで残り10秒。
KINGASH56-56わたなべ

次のシュートを決めたほうが勝ちだった。










試合終了まで残り10秒。
KINGASH56-56わたなべ

次のシュートを決めたほうが勝ちだった。

わたなべが速攻からミドルシュートを放つ。

息をのむKINGASHベンチ。

「はずれろ!はずれろ!」

「ガンッ!!」

「よぉぉぉぉし!!」


相手のシュートがはずれ、レッドの元にボールがこぼれ落ちる。








3ピリの終盤に復活したレッドは出場早々勢いをつかむ3Pを決める。

「上は大丈夫だな・・・ 問題は・・・」

直後のオフェンスでわたなべのポイントゲッターであるゆーしがレッドの捻挫をした足のほうに切り込みミドルを放つ。

前回の大会では彼に42得点を挙げられていた。

横に動くことに対応出来なかったレッドを尻目にそのシュートはリングを通過した。

「怖がっている場合じゃない・・・!」

レッドは気持ちを奮い立たせた。

ゆーしが逆転の3Pを決めた直後にも、イワキからのアシストでブザービーターの3Pを決めてみせた。
「そいつに打たすなって!!」
ゆーしが声を荒げた。








「最後のオフェンスだ」
タイムアップまで残り8秒。
リバウンドを拾ったレッドはそのまま一人で攻めようと思っていた。すかさずドリブルでボールを運ぶ。

相手は二人。「この二人を交わせば勝利を決定付けるゴールを決めることが出来る。」

しかし、レッドは目を疑うような不思議な光景を目にする。

なんとイタオがゴール下で手を振っている。
ディフェンス二人はレッドを凝視し、静かなる男イタオにはまったく気づいていない。
他のディフェンスも相手ベンチもそうだったのだろう。
イタオにマークを付かせる声もない。

レッドはすかさずゴール下のイタオにパスをだす。
イツジに向かって一直線に飛んでいくボールを見て、相手のディフェンスがゴール下のイタオを「発見」する。









相手はファールでイタオのシュートを止めた。
時間は残り3秒。普通ならば緊張してもおかしくない場面だ。
だがイタオは違う。
イタオは素晴らしくマイペースな男であった。

イタオは最初のシュートを冷静に決める。

「勝てる・・・!!」

残り3秒でKINGASHがリードを示すスコアボードを見て、モリコーは震えていた。
創部してから一度もわたなべには勝利を収めることが出来なかった。
前回の対戦では94-47と大敗を喫していたのだ。


これで1点差。

「チョモさん、信じてますよ。」

イタオはリバウンドに飛び込むチョモにそう心で語りかけた。

残り三秒。決めたとしても2点差で相手ボール。

わたなべはタイムアウトを取り、ハーフからのバスケットとなる。
逆転の3Pを決めるには十分過ぎる時間だった。

「ガンッ!」

二本目がリングをはじく。
わたなべボールになったとしても、エンド側からのオフェンスだ。

イタオはこの場面でも冷静だった。








ボールはイタオの狙い通り、チョモのほうへと飛んでいった。

しかし、チョモは完全にスクリーンアウトをされ、イタオの願いが篭ったボールはわたなべの選手の上に落ちてきた。

「ふんっ!!」

そのボールをチョモが後ろからはじく。
サイドラインに向かって飛んでいったボールを巨体のチョモが滑り込み、そのまま3ポイントラインのイタオにボールを託す。
イタオから託されたボールを、チョモは誰にも触らせずもう一度イタオに返した。


間髪をいれずに3Pを放つイタオに相手は再びファールを犯した。
時間は残り0.1秒。

「もうはずしてあげないよ」
フリースローを3本確実に決めたイタオは手ごたえを感じていた。

「東京もいいもんだな・・・・」

KINGASH60-56。試合毎に成長を続けるメンバーの姿がそこにはあった。









右下の山には第二シードの前回覇者、JETSが順当に準々決勝まで勝ち名乗りを上げていた。
しかし同じAのシューティングスターズが準決勝進出をかけた戦いで意地を見せる。

序盤からモデルのオキナワを中心に、中外とテンポの良いバスケでJETSからリードを奪う。4ピリオドまではシューティングスターズのペースだった。
しかし、終盤でリズムを乱したシューティングスターズは、インサイドが突っ込むだけのバスケになってしまい、JETSの波にのまれた。


「今年はもこみちがいるから、相手のエースは怖くない。」
レッドは試合を前にチームのバランスのよさを感じていた。

KINGASHは一つ一つはか弱いが五体満足のチーム。
どれだけ強いメンバーが揃っていても、頭に腕が生えているようなチームは統率力を欠きいずれ崩壊する。

それは後藤とミギーとの戦いで証明済みだ。(わかる人にだけの子ネタ)

絶対的な自信がそこにはあった。









JETS戦を前にシニア登録の元実業団選手であるジャンボに準決勝進出を告げた。
「最近接戦は絶対に落とさないし、落とす気がしないのですよ。」
品川大会でもこみちがブザービーターを決めて勝利した試合から、接戦に持ち込んだら絶対的な強さと自信を持ち続けていた。

「うん、そうやってチームは成熟していくのだよね」
悟ったような言葉をジャンボは与えてくれた。


「ピィィィィーーーー!!!」

「まじかよ・・・!」
レッドは1ピリオド残り3分で3度目の自身に対する笛に耳を疑った。
「なんも触ってねーよ・・・!!」

「レッド!交代だ!」
変わってモリコーが出場する。

「モリちゃん頼んだ・・・」

レッドをベンチへ追いやったショウヘイが冷静にフリースローを決め、得点は
KINGASH8-15JETSと完全にJETSペースだった。

モリコーは燃えていた。毎日坂道を走りこんでいた。
「絶対優勝してやる・・・!」

わたなべ戦に不出場だったこともあり、フラストレーションは溜まっていた。









直後にアズミが3Pを決め11-15と食い下がる。

もこみちは考えていた。「ここはチョモさんを使って高さで勝つんだ。」
もこみちからチョモへパスが入る。

すかさずターンをするチョモ。

「ピーィィィィィィィィィ!!!!」

「オフェンスチャージング!!」

湧き上がるJETSベンチ。

対してKINGASHベンチからは悲鳴のような声が上がる。

なぜならこれでチョモも3度目のファールを犯したからだ。

「やぱい・・・なんとかしないと・・・」

もこみちは序盤で得点源を2本も失ったチームで自分自身が何をしなくてはいけないかを考え始めた。








「ジャック!!チョモと代わってくれ!」
レッドは隣に座っていたジャックに対して大声で叫んだ。
その姿は焦りを隠せないでいることを現していた。

ジャックはアメリカ帰りの男だ。真剣にバスケを学んだことがなかったから、トラベリング選手権があったら優勝するであろう男だった。

ただ素晴らしい才能も秘めていた。もしも毎日ジャックを指導することができたら、自分なんか足元にも及ばないとレッドは感じていた。

そんな彼もしゃくれ同様、KINGASHに惹かれ真剣にバスケを真剣に想い始めた。
練習に来ては毎回レッドから叱られ、それでもめげずに練習をした。

期待と不安からジャックの体はカチカチに固まっていた。

スタートを二人欠いたフロアでは勢いにのるJETSのディフェンスにKINGASHは押され始めていた。

「く・・・パスの出しどころがない・・・!」

苦しいイワキは自らカットインをする。
ジャックのマークがヘルプに来たのをイワキは見逃さなかった。

イワキからのナイスパスを受けたジャックは緊張の中無我夢中でゴールに飛んだ。
「き・・・決めなくちゃ!!!」


「バシッ!」

ショウヘイがいとも簡単にボールを下で奪い去った。
ジャックのボールを下げる悪い癖がここででた。









「ああああ!!」うなだれるジャック。

「さぁカウンターだ!」

ショウヘイの前にはもこみちがいた。

レッドを追いやったショウヘイはもこみちに1対1を挑む。
フェイクから右に抜こうとするショウヘイ。
ショウヘイの持ち味である長い手足は、独特のリズムを生み出していた。

しかしもこみちはそれを読んでいた。
188センチの身長が嘘のような腰の低さでショウヘイからボールを奪い去るもこみち。
安堵の表情でそれを見つめるジャック。


「さぁ、一本いこうぜ!」

そう言ったか言わないかは知らないが、逆速攻を仕掛けるもこみち。
1対1を仕掛けたショウヘイに対して、もこみちはフリーのモリコーにパス。

「もらったぁ!!」

しかし、モリコーのシュートを相手フォワードがブロック。

床に倒れるモリコー。

「ちくしょう・・・・!!」

両チームともに譲れない何かがそこにあった。

前半終了直前のイツジの3Pで1ピリオドは14-20で終了した。











JETSの巨体センターは二分間の休憩中にメンバーにこう告げる。
「俺で勝負してください。」

標的はジャックだ。

2ピリオド開始早々、ベイビーの巨体は細身のジャックを押し込んだ。

「うぅぅし!!!!」

軽々しく点を取るベイビーにJETSベンチは盛り上がりを見せた。

2ピリオド残り5分。ショウヘイとベイビーの得点で点差は10に開いていた。

だがここまで激戦を繰り広げてきたKINGASHの五体は、思ったよりも太くなっていた。
ジャックを全員でカバーし、その間にもこみち、アズミ、イタオで得点を重ねる。
そしてちびっこスターのちっちがレイアップを決め3点差まで詰め寄る。

ちっちは練習試合で対戦した相手のガードだった。









ちっちは練習試合で対戦した相手のガードだった。
なんでも試合後に「ASHにいれてくんね~?」と連絡が来たらしい。
KINGASHのプレイとかみ合うまでに時間はかかったが、ここにきて調子を上げていた。

「レッドちゃん、俺このくらいやれるんですけど!?」

レッドにはちっちのプレーからそんな言葉が聞こえた。

ファールをもらったちっちはフリースローを1本決める。
続けてイタオもフリースローで得点し、点差は1まで縮まっていた。

ここまで無得点であったJETSのエースがもこみちのマークが付いていないことを確認し、意地のシュートを決める。









モリコーとちっちは仲がいい。二人は信頼関係にあり、よく酒を飲んではバスケを語った。

「ダムッ!」

ちっちがクイック力を生かしショウヘイを抜き去り、フリーのモリコーへパス。

「モリコー決めろよ!!」

「わかってるわ!!」

「ザシュッ!」

「ここまで来て負けてられるかよぉ!」

JETSはボールを拾うやいなや、速攻を仕掛けてきた。

KINGASHのディフェンスが遅れた隙をつき、ゴールは確実に思えたその時、
シュートを決めたはずのモリコーがそれに立ちふさがった。

モリコーはシュートが決まるのを見届けると、即座にディフェンスに戻り相手の速攻を食い止めた。
「俺がどれだけ走りこんでるきたか知ってるかい??」
絶対的な自信がそこにはあった。

次の速攻をエースが決め、27-30のJETSリードで前半を終える。










3ピリ開始早々、エースが立て続けに得点を決める。

見かねたレッドはコートに飛び出る。

自分たちのミスから生まれた速攻を止めるためにセーフティーで残っていたレッドは、突進して来る相手のコースに入る。

「うおぉぉぉ!!」

勢いよく倒れるレッド。
「ピーィィィィィィィィ!!」

「よしチャージングもらったぁ!!」

「ディフェンスブロッキング!!」

「ズコーっ!」

いきなり4つめの笛を吹かれたレッドは

「もうお家へ帰る・・・」と言い残し、自らベンチへ退いた。

自らをベンチへ下げるレッドを筆者は尊敬している。

いや、させてください。









ベイビーの3Pが決まって7点差となり、会場の雰囲気はJETS一辺倒になろうとしていた。
思いもよらないプレイヤーの3PにKINGASHベンチも静まり返った。

しかし、その静寂の中ただ一人、炎を燃え上がらせた男がいた。

「イワキさん、俺にパス回してください。」

「もこみち・・・!」


それはたった2分間の出来事だった。
ミドルシュート、フリースロー2本、スリーポイント、レイアップ。

もこみちはこの2分間を自分だけのものにした。
そこには誰も入ることは許されなかった。

彼は一人で一気に9得点を叩き出した。

静まり返っていたはずのKINGASHベンチは、もこみちのプレイで唸るような轟音を上げる。

この活躍で39-37と逆転に成功し、3ピリ残り3分を迎える。








借りを返そうともこみちに挑んでくるエースのシュートをもこみちが止める。

その活躍に一番興奮したのは、もこみちを誰よりも認めているSHINKOだった。

彼女は日本人ながらアメリカの1部大学で初めてプレイした名の知れた選手だ。
一昨年までJOMOのキャプテンをしていた人だ。

何もないただのスローインで突然

「きゃーぁぁぁぁぁ!!!」

と悲鳴を上げた。

爆笑するベンチ。
「なにその声!」
親友のぱつよはSHINKOに笑いながら声をかけた。

イタオがフリースローを2本決め、リードは4点に広がる。

エースがもこみちを振り切りミドルを決める。

その直後、もこみちも点を取り返す。

KINGASH43-42JETSでこの戦いは第4ピリオドを迎える。


ラストピリオドが開始早々、ショウヘイのゴールで逆転に成功するJETS.

直後、アズミのミドルで再度逆転。

JETS12番がインサイドでねじ込み逆転。

イタオがミドルで再び逆転。

「とられても取り返すだけっす。」

静かなる男イタオは燃えていた。

ショウヘイがフェイクからミドルを決める。

「その通りだな!」

シーソーゲームは止まらない。










ちっちがアクロバティックなプレイで再びリードを奪と、すかさず12番がミドルを決める。

イタオのチャージングで連続得点は止まるも、その後の攻めも防ぎ、もこみちがミドルを沈める。

「イケメン・・・待ってろよ・・・」
もこみちは絶対に負けられない理由があった。

自分がいないときに敗退した去年の借りを返すため。イケメンがいなくても成長したチームをイケメンに報告するため。

そのために必要なものは「勝利」ただそれだけだ。

残り4:48
イタオが冷静にフリースローを2本決め、53-50とシーソーゲームに終止符を打つ。



ベイビーがチョモに勝負を挑む。

「低い!」

チョモの前では高さで劣るベイビーのシュートは、リングに当たって落ちた。



JETSのフリースローが2本ともリングを叩いてアズミがそれを拾う。

「アズミ!!」

「もこさん!!」

アズミからパスを受けたもこみちはこの時点ですでに狙っていた。

3回のドリブルで3Pラインまでボールを運ぶと、もこみちの目には赤いリングしか目に入っていなかった。

チェックに行くショウヘイの上から放たれた3Pは大きな弧を描き、静かにリングに吸い込まれた。









一瞬の静寂の後に絶叫するSHINKOとベンチ。


すかさず反撃にでるショウヘイがドライブを試みる。
チョモの退場で代わって入ったジャックがそのドライブを食い止める。

「なんでこいつこんなところに・・・!」

ジャックは必死だった。無意識のうちに体が反応して、自分のマークマンを捨てショウヘイを止めた。

そのこぼれ玉をちっちが運ぶ。

フリーのアズミがファールを受けフリースローを得る。
冷静に2本とも沈めたアズミはボールから目をそらさずにディフェンスに戻った。

残り3:36
58-50
この場面でもショウヘイは笑顔を絶やさなかった。
「まだ行けるよ。」









その一言でJETSメンバーは自信を持ち、勇気を持って攻めに転じる。

直後のオフェンスでショウヘイが3Pを沈める。

そして再び・・・



「くそ・・・!」

アズミの上から2連続で決めた3Pは前年度の覇者の意地だった。

「ショウヘイヘーーーーイ!!」
湧き上がるJETSベンチにショウヘイはこの日最高の笑顔で返した。
「古いよそれ・・・」


KINGASH58-56JETS

ここで再びコートにもどるレッド。

立て続けに3Pをはずしてみせる。

「レッドはもう打っちゃだめぇぇぇ!!」
非情なSHINKOの温かい声援とともに、レッドは自ら

「今日は俺の出番じゃないや」

とモリコーと交代した。

勝利の為に自らを引っ込めるレッドを私は誇りに思う。

ええ、思わせてください。









レッドが乱射している間にショウヘイが2本のフリースローを決めスコアは同じ数字を指す。
「よし!同点だ!!」


5番がフリースローを1本決め、JETSが逆転をする。

残り1:33秒のことだった。

コートに立つ全員が思っていた。

「俺たちは接戦なら負けない・・・!」

ちっちが冷静に2本のフリースローを決め逆転に成功すると、すかさずもこみちがミドルを叩き込む。

JETSの攻撃をしのぎ、ちっちがボールを運ぶ。

「小さいからってなめんなよ!!!」

カバーに来たショウヘイの体とちっちの小さな体がぶつかった時、会場に笛の音が響き渡った。








それはショウヘイの退場を告げる音となった。

「だから言ったじゃーん」
ちっちはベンチに向かって大きくガッツポーズをした。

そのプレイで得たフリースローをちっちは1本沈める。

のこり30秒。
KINGASH63-59。JETS

もはやJETSは無理打ちを繰り返すだけだった。

アズミが1本、イタオが2本フリースローを沈めたとき、KINGASHは初めての決勝進出を決めた。

KINGASH66-59JETS

全員で勝ち取った大きな1勝だった。(レッド除く)
もこみちはこの試合で27得点を叩き出し、その自信に満ちた瞳は遠く北の地を見つめていた。









時間は少しさかのぼる。
左の山では準決勝が行われていた。

王者MADMAXと新勢力のMix-1の対決だ。

序盤から勢いにのるMix-1。

東京ナンバー1チームの点取り屋を要するチームは身体能力と上手さをかね揃えた素晴らしいチームだった。

しかし、最後に力尽きた。

土壇場の場面でMADMAXのエース、ビレッジを止めることが出来なかった。

個人技主体のMix-1に対して、徹底的にチームプレイできたMADMAXの勝負は終盤にその差を生み出した。









決勝は王者MADMAXと「え?まじ?」と誰もが耳を疑うKINGASHの決戦となった。


決勝戦当日。
JETS戦にほとんど出場していないレッドの足は9割方回復していた。

「もう横ステップも怖くないな。」

KINGASH女子に所属する砂丘姉妹の妹から借りた磁石での治療が功を奏した。

元トレーナーの女子キャプテン、コジコジからはテーピングの方法を教わった。

「先週は自分で点を取りに行こうと思いすぎていたなぁ。」

SHINKOに叫ばれたあの温かい言葉を引きずりながら、自分自身は使われるプレイヤーだということを再度確認し、レッドは会場へ向かった。
「トラウマになりそうだぜ・・・」









会場への道でレッドはこの一週間を思い返していた。

JETSを倒し、祝勝会の興奮が冷めやらぬまま月曜日を迎え、酒の力でそのまま眠りについた日曜日に対し、月曜日は眠ることが出来なかった。

「絶対に優勝する。でもただ優勝すればいいわけじゃない。問題は・・・」

様々な角度からチームを見直し、常に心臓は大きな鼓動を打っていた。

気がつけは携帯の時計はAM5:00を指し、究極の眠気のお陰でようやく眠りに付いた。

毎日深い眠りに就けぬまま迎えた木曜日、レッドは答えに辿り着きカズオにメールを打つ。

「決勝はSGで行くから、カズオのシュートで勝つぞ!!」

ここまでカズオの出番はごくわずかであった。
副代表である彼は自身の欲求よりも、チームの勝利を優先していた。
プロリーグのシーズン中はチームに合流できないカズオは、チームプレイの理解に若干の不安を感じていた。
彼の身体能力は素晴らしく、才能はチームで一番あると自他共に認めている。

祝勝会でもこみちがレッドに語りかけた。

「レッドさん、やっぱ代表と副代表には試合にでてほしいですよね」

レッドも同じ思いだった。

カズオをどうしても決勝の舞台で男にしたい。

そしてもう一人・・・。








決勝戦にはKINGASHの初優勝を信じる応援団が結成されていた。
中でもモリコーの友達がたくさん駆けつけた。

レッドはキャプテンとして一人一人に感謝の気持ちを告げた。

「やっぱ、プロとしてブースターとふれあい地域密着しなくちゃね」

カズオはただ笑っていた。


JETS戦後の祝勝会でしゃくれは悩んでいた。
チームは初の決勝進出を決めた。だけど、自分はチームの力になれているのか・・・?

ジャックもJETS戦に出場した。自分は??何をした??その疑問が引き金となって彼の口元を吊り上げていた糸を切り去った。

自分の存在意義は?

自分に対する自分の評価と、他人の自分に対する評価のバランスが上手く取れない。

その矛盾を振り払うかのようにしゃくれはテキーラを腹に流し込み、夜の渋谷で泣いた。










そのしゃくれが試合を前に

「みなさんバナナを持ってきたので食べてください!!」

彼に笑顔は戻っていた。

自分の存在意義を見出したのだろう。

それにはもこみちのアドバイスがあった。

夜の渋谷でもこみちに何を言われたのかをしゃくれははっきり覚えていない。

だけど、確実にその言葉はしゃくれの曇り空に一筋の光を差し込ませた。

もこみちは誰よりもしゃくれを信じていた。



「おお!しゃくれナイス!」

レッドはバナナをほおばった。
試合1時間前に食事を摂るにはバナナがちょうどいい。

全員がバナナを胃袋に流し込み、決戦の時間に備えた。

「お、もう一本バナナが余ってるじゃん!」

レッドがバナナをつかむ。

「いててて!それ俺の顔っすよ!」


まるでバナナのようにしゃくれたしゃくれは笑顔で皆の笑いをさそい、決勝前の緊張感をほぐしていた。









15時50分 決戦の時は訪れた。

スタートは イワキ55 レッド16 イタオ14 もこみち17 チョモ5だ。(数字は背番号)
相手ベンチのコーチの声がKINGASHメンバーの耳に入っていた。

「あれぇ?相手JETSじゃないんだぁ」

すでに優勝がどちらかに決まったかのようなムードがMADMAXベンチを包んでいた。

優勝候補王者MADMAXがコートに足を踏み入れる。

顔ぶれは、ジャッキー7 トーマス12 あつし6 マッスル14 そしてゴール下の支配者ビレッジ16だ。

ビレッジとレッドが審判と握手をし、試合は開始の合図を告げる。

ジャンプボールはビレッジとチョモの争いとなった。

審判がボールをトスアップすると、両者は一斉に空へ向かった。

「!!!」

勝者はチョモだ。

そのルーズボールをイワキが拾う。

もこみちからチョモへボールが入る。勝負を仕掛けたチョモは逆サイドにフリーのレッドを発見する。









レッドの手から放たれたボールはリングをはじく。

しかしそれをチョモがビレッジの上から奪い取る。

「こいつすげぇ・・・!」
レッドがつぶやく。

シューターにとって、リバウンドが強い事ほど心強いものは無い。


続くシュートをイタオが外し、レッドのファールでMADMAXにフリースローが与えられる。
これをトーマスが1本決める。
先制点を挙げた王者ベンチは盛り上がりを見せる。
「よしよし、俺たちのペースだ」
と手ごたえをつかむ。


イワキは見逃さなかった。

もこみちからのパスが渡ると、すかさず逆サイドのレッドへ渾身のパスを送る。
イワキのパスほど打ちやすいパスはない。
そして、外してもチョモがいる。

信頼という力を得たレッドの3Pはリングにかすることなくど真ん中を射抜いた。

「うひょぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

騒ぐしゃくれにぱつよが

「おいしゃくれみえねーよ!!」

哀れなしゃくれであった。









イワキのカットインから再びレッドの3Pが放たれる。

今度はリングにはじかれるも、それをイタオが拾いリングにねじ込む。

「しゃぁぁぁぁぁ!!」

としゃくれは座ったまま叫んだ。


MADMAXの攻めをしのぎ、イワキからもこみちへパスが渡る。

迷い無く放たれた3Pは綺麗にネットに収まった。

MADMAX6番あつしのドライブをもこみちとレッドで防ぐとイワキが速攻を仕掛ける。
中盤でタメを作ったイワキは、誰もいない右45度へパスを出す。

そこにはゴール下であつしを止めたレッドが走りこんでいた。

大きな歩幅でレイアップを決めた時、王者MADMAXは堪らずタイムアウトを請求する。

1ピリオド残り7:48秒
KINGASH10-1MADMAX

誰もが目を疑う光景が当たり前の顔をして会場を包んでいた。









タイムアウトで冷静さを取り戻したMADMAXはセットオフェンスを組み立てる。
スクリーンからマッスルがドライブを仕掛けるとカバーに入ったチョモと交錯する。

チョモにファールが与えられ、バスケットカウントとなった。

王者が目を覚まし始めた。

与えられたフリースローをマッスルが正確に決める。

ビレッジがチョモに勝負を仕掛ける。
どのチームもこのプレイにやられてきた。
ローポストでボールをもらうと、恵まれた体格をいかしゴール下をねじ込む。

チョモを押し込もうとするビレッジ。

「!!!!  重いっ!!」

全く力負けをしないチョモに、ビレッジはターンからのシュートを狙う。

しかしチョモが両手を伸ばし、ビレッジをシャットアウト。
「駄目だ!」

外にパスを出し勝負から逃れたビレッジに審判は3秒バイオレーションを告げる。

「すげぇ・・・・初めてみたよ・・。」

モリコーが目の前の光景に目をぱちくりさせていた。








傾きかけた流れをチョモが再び呼び戻すと、イワキはドライブからトップにいるもこみちへ正確なパスを供給した。

もこみちの3Pは前戦の勢いのままリングを通過した。

しかしここからある異変を感じる。

次のオフェンスでもこみちが謎のファールを吹かれる。
スクリーンをかけただけだった。

「なんもしてないっすよぉ!!」

叫ぶもこみちに対して審判は無言で立ち去った。

続くMADMAXのオフェンスでマッスルがドライブを挑む。
もこみちはただ手をあげているだけだ。

再び高音を放つホイッスル。

ファールトラブルは始まりを告げたのだった。








ここでKINGASHはいつもと違うオプションを得る。

普段はシュートを打たないイワキが速攻から自らミドルを決める。

「おおおお!イワキさん!!」

KINGASHの頭であるイワキは、絶対に個人プレーに走らない優秀なガードだ。
だからKINGASHはチームとしてなりたっている。
そして彼はパワーも得た。
努力がここで実を結ぶ。

もこみちから渡されたボールをイワキは迷い無くシュートに繋げた。

誰のシュートよりも高い弧を描くイワキの放ったボールは、再び音も無くリングに吸い込まれた。

絶叫を上げるベンチに対して、冷静な姿勢を崩さないイワキ。

カズオがレッドと交代してコートに入ると、ベンチは一層の盛り上がりを見せた。

カズオのドライブからのシュートは相手がカズオを吹き飛ばして止めた。
しかし笛はならない。

「おいっ!!」
「どーなってんだよ!!ファールだろ!!」

攻勢に出ると襲い掛かってくる魔の空気にカズオは飲まれた。

フリーでジャッキーがレイアップを決めると、珍しくイワキが感情をあらわにした。
ボールを壁にぶつけ
「ありえないだろ・・」
そうつぶやいた。

KINGASH21-13MADMAX

差は広がらないでいた。








ここでイワキに代えてちっちを投入する。
のちに彼が大仕事をやってのける。

インサイドでチョモがビレッジの上からシュートを決める。

「もしかして・・・こいつ・・・」

モリコーはそうつぶやいた。
その先の言葉は後に明らかになる。

再び勢いに乗るかと思われたところでチョモが3つ目の笛を吹かれる。

しかしここはあえてチョモを代えなかった。
この場ですぐに変えたら、それは相手の思う壺であったからだ。

レッドはチョモに「立ってるだけでいい!絶対に手を下げるな!」とベンチから指示を送るとチョモは小さくうなずいた。

残り時間は10秒。
MADMAXのフリースローの時にレッドは動いた。

「メンバーチェンジ!    二人!!」

レッドはベンチを振り向く。

「ロン毛ちゃん!」









「ロン毛ちゃん!」

ロン毛ちゃんとは、レッドと同じ年のケーキをこよなく愛する物静かで優しい男だ。
特にバスケが上手いというわけではなかったが彼は勤勉だった。
練習では必ずレッドに自分のプレーに対する評価を聞きに来る。
同じ年のロン毛ちゃんにレッドは時に厳しい言葉も投げかけた。

それでもロン毛ちゃんは練習をサボることなく、片道2500円もかかる練習場まで毎回駆けつけた。

眠れない日々、レッドはカズオとロン毛ちゃんを必ず試合に出し男にすると決めていた。

二人がいたからレッドは好きにバスケをさせてもらっていたことを理解していたからだ。
ロン毛ちゃんの得意技は3P。








毎晩思い描いていた場面が今ここに現実の物となった。

「交代!!二人!!」

3回はロン毛ちゃんを呼んだだろうか、しばらくキョトンとしていたロン毛ちゃんは自分が呼ばれている事に気付くと急いでTシャツを脱いだ。

「ロン毛ちゃん、役割はわかっているね?」

「もちろんだよ。レッド!」

MADMAXベンチも感じていた。この場面で投入される謎のポニーテール。
シューターなのか??なんなんだ??タケチャンマンか??いや、





「大日本人だよ」












混乱がMADMAXを襲う。
コートにはレッド、カズオ、ロン毛ちゃんとシューターが揃った。

スローインと同時にゴールへ向かいダッシュをするロン毛ちゃん。
ロン毛ちゃんにはマークがしっかりつかれていた。

それを見逃さないちっち。

パスを警戒したディフェンスを交わし、自らブザービーターを決めた。

「よしっ!!」
ロン毛ちゃんの登場でチームはさらに一体感を強固なものにしていった。

シュートを決めるだけが仕事じゃない。ロン毛ちゃんは見事に仕事をやってのけた。
勤勉な姿勢が実を結んだ瞬間だった。

KINGASH24-14MADMAX

ゲームは2ピリオドを迎える。









休憩の間にレッドはファールを3回吹かれているチョモに話しかける。

「どうだい?次は休もうか?」

「ん~。もう一回ファールやっちゃったら後半不安だし、でも今は抜けられない気持ちもある。」

「わかった。じゃぁ、少しだけ踏ん張ってくれ。カバーとか行かなくていいからノーファールでお願いね。」

「わかった。」

2ピリオドは逆転されても仕方がない。終盤で必ずうちは勝てる。

レッドは覚悟を決めていた。

開始早々イタオのファールが吹かれ、MADMAX6番あつしがバスケットカウントを決める。

「ええ!?手を上げてただけじゃんかよ!!」

冷静なイタオが審判に疑念を抱く。

「ん~まいっちゃったなぁ。練習から手を下げない事を意識しているのに・・・。」
イワキはそれを見つめ、笑う事しか出来なかった。

続くオフェンスでボールをもったイタオの顔にスティールを狙ったジャッキーの手が勢い良く当たる。しかし笛はならない。
「ちくしょう・・・。わかったよ・・・。」
イタオはこの展開を理解する事で自分を納得させた。









イワキがトップから切り込んでくるレッドにパスを送り、レッドがそれを沈める。
「俺たちのバスケをするだけだ!」
だが展開はそれを許さなかった。

機関車のようにトーマスが突進してくる。イタオは手を上げそれをさえぎる。
トーマスの体がイタオの体にぶつかる。
再び笛は高音の音色を上げた。

「なにしたってんだよ!!」
審判になにもしてない事をアピールするイタオ。

レッドはあまりにもの不思議な光景に顔を手で覆う。
「アズミ!イタオとチェンジだ!」

冷静さを失いかけたイタオをレッドはすぐにアズミと交代させた。
無理は無い。もはや守る事が許されないくらいの判定だったからだ。
「俺は動いてないじゃん・・・・ブツブツブツ」

再び速攻から突進してくるトーマス。
レッドが大きく手を上げそれをさえぎる。

嫌な予感がしたレッドは触れない程度に守るだけにした。

しかし


「ピィィィィィィーーーーー!!」

「バスケットカウントッ!!!」

「なにもしてないじゃないですか!!」
レッドに代わってイワキが質問をぶつけるも、審判は耳を貸さない。

審判は二人いるのだが、不可解なジャッジをするのは審判のワッペンを持たないほうだけであった。時としてこういう場面は起こりうる。

天を見上げるKINGASHメンバー。応援団からはありえないという内容の声が響く。

トーマスがフリースローを決め得点は

KINGASH30-22MADMAXと徐々に縮まっていた。









ここでレッドは危険を感じチョモを下げる。
代わって入ったモリコーが「ここは我慢だ」と全員に語りかける。

イワキ-レッドのホットラインからの3Pが決まるとベンチは再び盛り上がりを見せた。
「しゃぁぁぁぁぁ!!」
カズオが叫ぶ。

その後オフェンスが停滞するKINGASHに対しMADMAXは怒涛の反撃にでる。
笛を恐れたKINGASHのディフェンスはちょっとでも強く触れたら崩れてしまう豆腐のようになっていた。
もこみちがレイアップをはずしてしまうくらいに、全員が冷静さと柔軟さを失っていた。

トーマスの突進に触れる事すら出来ないディフェンスはそのシュートが決まるのを見届けるとたまらずタイムアウトを申請する。

KINGASH33-31MADMAX

差は2点に縮まっていた。

レッドはカズオ、ちっちのスピードコンビで流れをかえることを試みる。

もこみち、アズミのシュートがリングを叩く。

MADMAXはしたたかに小さくなったKINGASHのフロント陣のミスマッチを突いてきた。
カズオに勝負を挑むトーマスは倒れこむカズオを見下ろしながら、軽々とシュートを決めた。

「よぉぉぉし!追いついたぞ!」
MADMAXのコーチが自信に満ちた表情をみせる。

「ここまで相手のペースだったかもしれないが、そもそもうちがこんなチームに負けるはずがないのだ。」
「お前らここだぞ!!突き放せ!!」

「うっし!!」

MADMAXは獲物を捕らえた野獣のような興奮を表面に現した。








しかし、イタオがポストプレーからチーム久々の得点をあげ、もう一度点差をつける。

マッスルのフリースローが一本決まり、差は1点に縮まる。

勢いに乗っているトーマスがレッドに1対1を仕掛ける。
コースを完全に読みきり、トーマスよりも先に動き、そこにトーマスが飛び込んできた。
「よしっ!」
レッドは体でトーマスを受け止めると、それはトーマスに対する
「お前じゃ俺を抜く事は出来ない」
というメッセージだった。

レッドの思いとは裏腹に、審判は非常な判定を下した。

「ファール!!黒16番!!」

「ええええ!!!」

目の前で行われた不可思議な判定に騒然とする応援団。

「ナイスディフェンスだったでしょ?」
応援団に語りかけるレッド。

「レッド!ナイスディフェンスだよ!」

「ちょっとちょっと!!」
もこみちが審判に文句を言おうとするも、思い直してあきらめ引き返す。

突然審判は振り返りもう一度笛を吹く。

「16番(レッド)!テクニカルファール!!」

「はぁ!!??」

オフィシャルに申告を済ますとレッドに駆け寄る審判。

「なんか文句でもあんの?」

「俺なんも言ってないじゃないすか?」

「あっそ。」

「・・・・」

「ん~。敵はMADMAXだけじゃないようだなぁ。」
レッドは開き直るしか手がなかった。
別にMADMAXが悪いわけではない。時として審判が試合をぶち壊す。どんなスポーツでもよくある光景だった。

立て続けに受けたファールでレッドのファールは一気に4つとなった。









MADMAXが4本のフリースローを3本決めた時、スコアボードは先ほどまでと逆の内容をさしていた。

KINGASH35-37MADMAX

嫌な空気が流れる中、2ピリオドは終了のブザーを鳴らした。


自信を失いかけたベンチにレッドが叫んだ。

「お・・・おまいらぁ!け・・・・・計算通りだぁ!!」

きょとんとするメンバー達。

「前回も俺が4つファールをして、それで勝ったじゃないか!」

「つまり、勝ちフラグがたったという事だぁ。」

最後の一言はあまり理解できなかったメンバー達だが、その表情は少し和らいだように感じた。

「チョモを下げて逆転されるのは計算の内だ。むしろ2点差でよかったと思う。
俺たちは後半に強い。それは皆知ってるね?」

「ああ!」

そう、ここまで全試合逆転に告ぐ逆転で走り続けてきた。

最後の最後、特に残り3分を切ってからの強さは、レッドも今までに在籍したどのチームでも経験した事がないような強さを秘めていた。

レッドが退き、代わってチョモをコートに戻し3ピリオドは開始された。



1ピリオドにモリコーが発言した言葉の続きがここで明らかになる。










1ピリオドにモリコーが発言した言葉の続きがここで明らかになる。


ビレッジを背に置き押し込み、ターンからのフックシュートを沈めるチョモ。

「こいつ・・・・渋谷NO.1センターかもしれない・・・!」

ずっと求めていたゴール下の高さがKINGASHに加わったとき、イケメンを失った傷は少しずつ癒え始めていた。

「アズミ・・・お前が連れてきた男は、KINGASHに必要な存在になったぞ・・・!」

イタオもそれを確信するが、それが悪い方向へ流れた。

チョモへのパスを考えすぎたイタオは、積極性を失いパスミスを連発させた。

「攻めろよ!!」

ベンチが声を荒げる。

「む~~~ごめんなさい。」
直後に攻め気からファールを誘い、フリースローを2本決め逆転に成功する。

KINGASH39-38MADMAX

残り時間は後8分。まだまだ試合は過熱する。

チョモがビレッジに勝負を仕掛けるも、ビレッジは意地の抵抗を見せる。
たまらず外へパスを捌く。

イタオが外したリバウンドを誰よりも高い位置で拾うチョモ。

「ごくっ・・・・!」
モリコーは唾を飲み込んだ。

「イケメン・・・お前を越える逸材が今目の前にいるぞ・・・」
もしもチョモとイケメンが同時に存在できたら・・・・
モリコーは言葉には出さなかったが、夢の競演を頭に描いていた。









あつしがドライブを決める。

イワキがミドルを沈める。

ビレッジが速攻からチョモを交わしシュートを叩き込む。

続けてフリースローを2本決めるビレッジ。

「ふぅ・・・。こっからだな。」

MADMAXも前戦で大逆転を演じて勝ちあがってきた。
両チームともここからが勝負の始まりだということを肌で感じていた。

チョモから離れ外でボールをもらったビレッジは迷わずミドルシュートを放つ。
「中は負けでいい。でも俺には外もあるんだ。」

チョモは自分の上を通過するボールをただ見つめるだけだった。

白いネットを通過してフロアに落ちるボールを見てビレッジは己のプレーを取り戻した。
「危ない危ない。飲み込まれそうになっていたよ。」

3ピリオド残り4:49秒
KINGASH41-46MADMAX

じわじわと差は広がろうとしていたのだった。


アズミがフリースローを2本外し、モリコーからのパスをゴール下で再び外した時にベンチに座るレッドにある男が話しかけてきた。

「レッド、アズミが調子悪いみたいだから俺と代えてくれない?イワキと2ガードをしたいんだ。」

「いや・・・高さが恐いな」
2ピリオドに高さを捨てたときのイメージが強かったレッドは一瞬それを断ろうとした。

しかし、ここでレッドの頭脳が高速回転をみせる。

「あ・・・。良いかも。」
それは一瞬のことだった。最初に断りかけた事を悪いと思いながら、レッドはこう言い切った。


「よし行こう!ちっちとアズミで交代だ!」











「よし行こう!ちっちとアズミで交代だ!」

作戦を持ちかけたのはちっちだった。

ここでミスマッチが生まれた。

しかしそれは体のことではない。

ちっちのハートは誰よりも大きかった。
その大きさによるミスマッチはのちのプレイで明らかになる。

しかし、ジャッキーにはじかれるちっちをみて、少し不安に思うレッド。
しかし今は仲間を信じるだけだった。

イワキの負担が軽減し、ディフェンスも活気を取り戻し始めた。
不調のイタオに代えてレッドも自らをコートに送り出した。
応援団からは「レッド4つだよ?大丈夫?」と声がする。

その際にベンチに叫んだ。

「もし俺が退場しても、それは悪い流れじゃない。その時は全員がチャンスだと思って準備しておくように!」

メンバーの力強い目を確認すると、レッドは後1つファールをしたら退場という十字架を背負って、この日一番の集中力でコートに足を踏み入れた。

「16番(レッド)4つだぞ!!」
ビレッジが全員に確認を取る。

「それシー!大きな声で言わないでぇ!」
レッドがそうビレッジに告げると、ビレッジは笑顔で返してきた。

「やっぱりこのこはナイスメンだな。」
きっと出会いが違うものであったら、とても良い仲間になっていただろうとレッドは確信した。











イワキがフリースローを2本決め、得点差は3となる。

マッスルとあつしが交代し、レッドのマークマンはあつしとなる。

「俺を退場させる気できたな。」

レッドはわかっていた。自分でもそうするだろう。

その通りにあつしが果敢にドリブルを仕掛ける。
しかし躊躇無く守るレッド。笛は吹かれない。

実はそのプレイの前に審判の心をすこしいじっておいた。

「俺4つだよ!あとひとつ吹かれたら退場だからね!」

そう宣言しておく事で、軽い笛は止まる。

審判とて人。退場を宣告するのは気持ちいいものではない。
人の罪悪感に訴えかけることで、自分の立場を優位なものにした。

だからこそのディフェンスだった。
あつしのシュートははずれた。

直後の速攻でちっちからのパスをサイドで受け3Pを狙うレッド。
それを防ごうとするビレッジをレッドは確認していた。

フェイクだった。

ビレッジを交わしミドルシュートを決めた。

「よぉぉぉし!」

そしてすぐさまイワキがスティールを決める。

イワキがカットインを仕掛けると、レッドはトップのモリコーにバックドアをかけた。

その展開により3Pラインでフリーになったレッドをイワキは見逃さなかった。

「レッド!!」

「ナイスパスだ!イワキ!」

バックドアからの展開はフリーになりやすい。徹底して練習してきた形だった。

レッドの3PがMADMAXゴールを射抜いた。
盛り上がる応援団にレッドは指を刺し感謝の気持ちを込めた。

「逆転だ!!」
ベンチではカズオが全員にハイタッチを決める

3ピリオド残り1:45秒
KINGASH48-46MADMAX










MADMAXがフリースローを1本決め1点差。

イワキにフリースローが与えられた。
突然しゃくれが
「所詮2割シューター!!」
と叫び始めた。
きっと「はずしてもいいよ!」という彼なりの優しさだったのだろう。

イワキは1本目にエアーボール(リングにあたらないではずす)をしてしまった。

「どんだけはいらないんだよ!!」
しゃくれとベンチが大笑いする。

2本目を準備するイワキにカズオとしゃくれが
「もともとはいらねーよ!」
と声をかける。
どこまで彼らの心はしゃくれているのだろうか。

2本目はしっかり決めて点差は2に戻る。

もこみちがインサイドでボールを保持する。
外のレッドがそれにあわせ、3Pを狙う。

「うたせるかぁ!」とあつしが飛び込む。

しかしこれもフェイクだった。


レッドは試合前に自分自身を見つめなおしていた。

去年は誰も俺を知らなかった。
でも今じゃ俺の3Pは警戒されている。

カニトップス戦もわたなべ戦も、高確率で3Pを決めていた。
それを対戦相手は見ているはずだ。

つまり、フェイクが有効になる。


あつしが飛んだのを確認すると、レッドは左にワンドリブルをしてミドルを打とうとする。
もこみちのマークが自分に来るのを確認するともう一度フェイクをし、フリーのもこみちにパスを捌いた。
「頼んだぞ!もこみち」

しかし、1ピリオド以降シュートを決めていなかったもこみちはここで消極的になり、さらに逆サイドのチョモにボールを送る。

それをジャッキーがはじく。

大きく天を舞ったボールは再びどんぴしゃでレッドに戻ってきた。
ボールをキャッチしワンドリブルで二人を抜き去ると、正面にはビレッジしかいない。

フェイクを警戒したビレッジをよそ目にレッドはワンステップでミドルを放つ。
ボードを狙って放ったシュートは狙い通りリングを通過した。

「タイムアウトMADMAX!!」

3ピリオド残り44.5秒。
KINGASH51-47MADMAX
王者は焦りの色を隠せなかった。










タイムアウトで体勢を立て直すはずだったMADMAXだったが、KINGASHの流れは止まらない。

チョモにボールがはいり、それをちっちが受ける。
「フリーじゃーん。」

45度から放たれたちっちのシュートはタイムアウトで勢いを失わなかったKINGASHの強さを表した。

3ピリオド終了
KINGASH53-47MADMAX


ラストピリオド最初のシュートはトーマスのフリースローだった。
2本を確実に決めるとKINGASHは爆発を起こす。

ちっちのレイアップがはずれ、もこみちが混戦のゴール下でボールをはじく。
ボールはイワキの元に転がり、イワキはボールを拾った瞬間にフリーのレッドにパスを贈る。

ボールをもらう前から誰も来ない、いや来れない事は確認していた。
パスを捌くやいなや、イワキがあつしにブロックしたのもそれを助長した。

イワキからもらったボールを今度は迷い無く空に放った。

「あ・・・・いい感じ・・・」

その感覚を脳に送ってきたのは指先と膝だった。
レッドのシュート哲学はこうだ。

まっすぐ飛ばすのは手首と指2本。

距離をつかむのは膝。

その二つが心地よい刺激を脳に送る。

打った瞬間に入るとわかったボールは、レッドの感覚を裏切ることなくネットに包まった。


「あの時思いとどまってよかったね・・・!」
イケメンの離脱で本気でユニフォームを脱ごうと思っていたレッド。
それをぱつよは1番誰よりも知っていた。

時に精神的に不安定になるレッドを支え、今日このときまでレッドを支えたのは他でもないぱつよだった。

すかさずインサイドでのミスマッチをつくジャッキー。しかしちっちはパワー負けしない。
たまらずジャッキーが逃げた時、3秒バイオレーションの笛は吹かれた。

ペースは完全にKINGASHが握っていた。











チョモにボールが収まると、イワキはちっちにスクリーンをかける。
0度でボールをもらったちっちに誰一人としてマークに行く選手はいなかった。

「って、なめてんのかよ!?決めちゃうよ?」

ちっちはそれを確実に沈める。ハートのミスマッチはここからさらにあらわになる。

残り時間7:20秒
KINGASH58-49MADMAX

イワキがトップからドライブを決める。
これで11点差。

震える応援団。

モリコーとカズオは二人で話していた。

「このままいったら俺たちがでるぞ」
「ああ。一緒にその瞬間をつかもう」

二人で始めたKINGASHは王冠を目の前にしていた。

レッドがインサイドでターンをし、逆サイドでフリーのちっちにパスを送る。

「ったく・・・勉強しない人達だね!」

ちっちが止めとなろう3Pを決めた。
ベンチ全員とハイタッチをし、MADMAXのタイムアウトの笛がなる。

残り時間5:48秒
KINGASH63-49MADMAX

ここまでMADMAXは2得点しかとれないでいた。

「イタオ代わってくれ」

レッドの足は限界を迎えていたのだ。
「頼んだよ・・・!」

「おいっす。」


「・・・わかってるよな・・・」レッドは心でつぶやいた。









ルーズボールを追いかける相手の後ろからちっちがボールを奪い去る。
そのままフリーでミドルを放つ。

「ザシュッ!」

「うぉぉぉぉあうぇrftgyふじこgyふじこ!!」

奇声に近い声が応援団からこだますると






その音に反応するかのように、王者が目覚めた。


速攻からマッスルが3Pを決める。
ガード陣にはピッタリマークがつく。
そしてイタオがパスミスを犯し、ジャッキーがレイアップを決める。

一気に5点が縮まった。

残り3:44
KINGASH65-55MADMAX

レッドがイタオと交代し、アズミがボールをもらいディフェンスを交わした瞬間に送れてコースに入ったディフェンスの膝がアズミの腿に入り、アズミが転倒する。

しかしファールは吹かれない。

悶絶するアズミを前に応援団からは笛がならない事に不満の声が響く。
「審判それとらなくちゃ危ないでしょ!!」
もこみちも審判に釘を刺す。

しかし、ここからが再び第三の敵との始まりだった。







ちっちを押すディフェンス。しかし笛はならない。

続けてレッドが完全に相手のコースに入り、肩で押され倒れこむ。

これも笛はならない。

「はじまったか・・・。」
レッドは笛が鳴らないことがどんな状況なのかを悟った。

もこみちがスティールから速攻を仕掛けるとマッスルがたまらずもこみちのユニフォームをつかむ。

「テクニカルファール!」

「さすがにこれは吹いてくれましたね。」
安堵の表情をみせるもこみち。
しかし、この流れは一筋縄ではいかなかった。

フリースローを1本決め、再びKINGASHボール。
攻めに失敗すると、マッスルが再び3Pを決める。
残り1:47秒
KINGASH66-58MADMAX

フルコートプレスを仕掛ける相手に対して、イワキが今日初めてのミスを犯す。
スティールからのレイアップを確実に決め、差は6へと縮まった。

残り41秒。

もこみちが手を叩かれボールを失う。
笛はならない。

MADMAXはファールゲームを仕掛けていた。
激しいディフェンスでもならない笛に、その勢いは加速をみせた。

速攻から、この日カットイン主体だったあつしが3Pを決める。
カットインを警戒していたレッドは反応できなかった。

残り31秒
15点あったはずの得点差は、いつのまにかたったの3点になっていた。



残り31秒
15点あったはずの得点差は、いつのまにかたったの3点になっていた。

「オフェンス!!」

その笛を吹かれたのはもこみちだった。

スローイン時に普通にかけたスクリーンが謎のチャージングとなる。

「どこまでなんだよ、こいつっ!」
もこみちは崩れ去り感情をあらわにする。

「またこいつかよ・・・」
「ゲームつくんなよ!!!」
ベンチにはそんな声があった。

残り20秒、難しい体勢で無理やりあつしが3Pを放つとそれは宙を舞った。

その速攻で攻めに転じたレッドはレイアップを狙う。
逆サイドにはチョモ。はずしてもリバウンドで勝てる。
「これで終わらせる!」

しかしMADMAXのセンターがそれをさえぎり、マッスルの上からチョモがボールをはじく。最後はマッスルが触って出したように見えたボールは例の審判によってMADMAXボールに変わる。

残り6秒。
KINGASH66-63MADMAX
これが最後のオフェンスになることは会場にいる誰もがわかっていた。










残り6秒。
KINGASH66-63MADMAX
これが最後のオフェンスになることは会場にいる誰もがわかっていた。
3Pを決められたら延長戦。それだけは絶対に阻止するべきだ。


スローインにレッドが飛び込む。

しかしボールは無常にもトーマスに渡り、トーマスは機関車のような突破でもこみちをも抜きさる

残り3秒

トーマスはあつしにボールを捌くとスクリーンをかけて、あつしをフリーにする。



残り2秒

あつしが3Pを放つ。

「いけぇぇぇ!!」

ボールは高い弧を描いていた。


誰もが息を呑むまま、ボールは無言でリングを目指す。

残り1秒







残り1秒









みんな様々な悩みを抱えていた。


「レッド、キャプテンをやってくれないか」

チームを強くすることは、それまでのチームを捨てる事に繋がる。

残るメンバーもいれば去るメンバーもいた。

出来れば全員で楽しく過ごしたい。

欲求と現実はなかなか釣り合う事無く必ずどちらかに傾いた。

それでもここまで信じてついてきてくれたメンバーでKINGASHは強化の道を辿った。

悩みはきっと、いつまでも消えないだろう。

強ければ強いチーム固有の悩み、弱ければ弱いチームの悩み。

それでも皆で力を合わすことが出来れば、今日のように笑える日を迎えられる。

モリコーは全員に感謝すると代表として、そのボールの行方を追った。


全員が見上げていたはずのボールは、何にも触ることなくフロアに落ちた。


そしてその音こそKINGASHが求めていた王冠を手にした瞬間の合図となった。

~エピローグへ








二代目KINGASH男子主将 赤津誠一郎 薯

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